『赤いべべ着せよ…』(今邑彩・中公文庫)は、民間伝承と現代の殺人事件が交錯する長編サスペンスです。以下、完全ネタバレを含む詳細な内容を紹介します。
🧵物語の背景と導入
舞台は「鬼女伝説」が残る地方都市・鬼首町。かつてこの町では、赤い着物を着た女児が古井戸から遺体で発見されるという事件が起きていた。町には「赤いべべ着せよ…」という不気味な言い伝えが残っており、住民の間では鬼女の呪いと恐れられていた。
20年後、同じ町で再び赤い着物を着た幼女の遺体が古井戸から発見される。状況は過去の事件と酷似しており、町は再び騒然となる。
🧩主な登場人物
- 藤崎滋:元刑事。現在は民俗学者として鬼首町の伝承を調査している。
- 美佐子:滋の元恋人。過去の事件に深く関わっていた。
- みちる:美佐子の娘。今回の事件の被害者。
- 滋の妻・由紀子:穏やかな性格だが、物語の核心に関わる人物。
- 地元の住民たち:伝承に囚われ、事件を「鬼女の祟り」として語る。
🕯️物語の展開(完全ネタバレ)
第1章:再び起きた「赤いべべ」の事件
- 鬼首町で幼女・みちるが失踪。
- 古井戸から赤い着物を着た遺体が発見される。
- 警察は過去の事件との関連を疑い、滋に協力を依頼。
第2章:過去の事件の真相
- 20年前の事件では、滋が捜査に関わっていた。
- 被害者は美佐子の妹で、当時美佐子は精神的に不安定だった。
- 美佐子は「赤いべべ着せよ…」という言葉を口にしていた。
第3章:民俗学と伝承の闇
- 滋は鬼女伝説を調査。鬼女とは、子を失った母の怨霊とされる。
- 「赤いべべ」は、死者に着せることで成仏させるという民間信仰に基づく。
- しかし、伝承は住民の恐怖と偏見を助長し、事件の真相を覆い隠していた。
第4章:犯人の正体
- みちるを殺したのは、滋の妻・由紀子だった。
- 由紀子は滋が美佐子に未練を持っていると感じ、嫉妬に狂っていた。
- 由紀子はみちるを殺害し、過去の事件を模倣することで美佐子に罪を着せようとした。
- 「赤いべべ着せよ…」という言葉は、美佐子の狂気ではなく、由紀子の計画の一部だった。
終章:人間の業と伝承の力
- 滋は由紀子の犯行を知り、苦悩する。
- 美佐子は精神的に崩壊し、過去と現在の悲劇に囚われ続ける。
- 鬼女伝説は、実際には人間の感情と罪が生み出した幻想だった。
- 最後に滋は「赤いべべ着せよ…」という言葉の意味を問い直す。
🎭テーマと構造
- 母性と狂気:母親たちの愛情が歪んだとき、子供が犠牲になる。
- 伝承の力と危険性:民間信仰が真実を覆い隠し、偏見を助長する。
- 嫉妬と罪:人間の感情がどれほど破壊的かを描く。
- ホラーとミステリーの融合:怪異ではなく、人間の心が最も恐ろしい。
この作品は、民俗学的な要素と心理サスペンスが融合した異色のミステリーです。読後には、伝承の意味と人間の闇について深く考えさせられる余韻が残ります。