『弁護側の証人』(小泉喜美子/集英社文庫)は、1963年に発表された日本ミステリー史に残る名作で、叙述トリックを巧みに用いた法廷サスペンスです。
📘 基本情報
- 著者:小泉喜美子
- ジャンル:法廷ミステリー/叙述トリック
- 刊行:1963年(文庫版は集英社文庫)
- タイトルの由来:アガサ・クリスティ『検察側の証人』へのオマージュ
🧩 あらすじ(ネタバレあり)
登場人物
名前 | 役割 |
---|---|
漣子(なみこ) | 元ヌードダンサー。主人公。八島家に嫁ぐ。 |
八島杉彦 | 漣子の夫。八島財閥の御曹司。 |
八島龍之介 | 杉彦の父。八島産業の社長。殺害される。 |
竹河誼 | 八島家の主治医。漣子に性的脅迫をする。 |
飛騨洛子 | 杉彦の姉。漣子を敵視。 |
清家洋太郎 | 弁護側の証人。風采の上がらない弁護士。 |
事件の発端
漣子は玉の輿に乗って八島家に嫁ぐが、義父・龍之介が殺害される。容疑者は夫・杉彦。漣子は「夫を命よりも愛している」と語り、彼を守るために嘘の証言をする。
叙述トリックの仕掛け
物語は漣子の視点で語られるが、読者は彼女の語りに騙される。実際には、漣子が拘置所にいるのに、杉彦がいるように錯覚させる描写がなされている。
- 漣子の妊娠は杉彦と出会う前から始まっていた。
- 主治医・竹河にその秘密を握られ、性的関係を強要される。
- 義父殺害の夜、漣子は離れで龍之介の死体を発見。
- 漣子は杉彦を守るため、証言を偽造する。
法廷と「弁護側の証人」
裁判は漣子の証言により杉彦に不利な状況が続くが、風采の上がらない弁護士・清家洋太郎が登場し、真実を暴く。
- 清家は漣子の証言の矛盾を突き、彼女自身が事件の鍵を握る人物であることを示す。
- 「弁護側の証人」とは、清家が呼び出した人物ではなく、漣子自身だった。
結末
- 杉彦は無罪となるが、漣子は自らの嘘と罪に苦しむ。
- 物語は漣子の「敗北」と「告白」で幕を閉じる。
- 読者は最後に語りの構造が崩れ、真実が明かされる瞬間に驚かされる。
🎭 作品の特徴と評価
特徴 | 内容 |
---|---|
構成 | 漣子の一人称と三人称が交錯する語り。 |
トリック | 語り手による視点操作。読者の誤認を誘う。 |
テーマ | 愛と嘘、正義と犠牲。 |
読後感 | どんでん返しの鮮やかさと切なさ。 |
📝 総評
『弁護側の証人』は、アガサ・クリスティの『検察側の証人』に触発された作品でありながら、日本的な情念と家庭の闇を描いた傑作です。叙述トリックの巧妙さと、漣子という複雑な女性像が読者の心に残ります。