ネメシスの使者

『ネメシスの使者』(文春文庫)は、中山七里による社会派ミステリーで、司法制度と死刑制度をテーマにした重厚な作品です。


📘 基本情報

  • 著者:中山七里
  • シリーズ:渡瀬警部シリーズ(『テミスの剣』の続編的位置づけ)
  • ジャンル:社会派ミステリー、警察小説、サスペンス

🧩 あらすじ(ネタバレあり)

第1の事件:熊谷の殺人

埼玉県熊谷市で戸野原貴美子が殺害される。現場には「ネメシス(義憤の女神)」という血文字が残されていた。貴美子の息子・亮一は10年前に女性2人を殺害し、無期懲役判決を受けていた。被害者遺族の復讐か、司法制度への挑戦か――捜査が始まる。

第2の事件:連続性の発覚

続いて、別の殺人事件が発生。いずれも「死刑を免れた加害者の家族」が標的となっており、ネメシスは「司法が裁ききれなかった罪」を代行しているかのように見える。

捜査の混迷

渡瀬警部と古手川刑事は、過去の判決に関わった裁判官や弁護士もターゲットになる可能性を考慮するが、容疑者は絞りきれない。岬検事とも連携しながら捜査を進めるが、手がかりは乏しい。

急展開:ネメシス逮捕

第3の事件が起こる前に、ネメシスが逮捕される。だが、渡瀬は「出来すぎた逮捕劇」に違和感を覚える。真犯人は別にいるのではないか――。

真相とどんでん返し

実は、逮捕された人物は“代行犯”にすぎず、背後には司法制度に強い憤りを抱く真の黒幕がいた。彼は「温情判事」と呼ばれる渋沢裁判官の判決に怒りを覚え、正義を自らの手で執行しようとしていた。


🎭 テーマと構造

要素内容
正義 vs 復讐ネメシスの行動は「義憤」か「私怨」か。読者に問いかける構造。
死刑制度死刑判決を免れた加害者とその家族への報復が物語の軸。
社会的メッセージ被害者遺族の苦しみ、司法の限界、世論の暴走などが描かれる。
どんでん返し犯人の正体、動機、逮捕劇の裏側など、終盤に衝撃の展開が連続。

🧠 読後の余韻

  • 犯人が明かされても「スッキリしない」読後感。
  • 正義とは何か?司法は誰のためにあるのか?という問いが残る。
  • 一度読んだだけでは消化しきれない構成で、二度読み推奨の作品。