『希望の糸』(講談社文庫)は、東野圭吾による加賀恭一郎シリーズの一作で、主人公は加賀の従弟である刑事・松宮脩平。殺人事件の捜査を通じて、複数の家族の過去と秘密が絡み合い、やがて「希望の糸」で結ばれていく人間ドラマが展開されます。
📘 基本情報
- 著者:東野圭吾
- シリーズ:加賀恭一郎シリーズ(主人公は松宮脩平)
- ジャンル:警察小説/ヒューマンミステリー
- テーマ:家族、再生、喪失、血縁と絆
🧩 主要登場人物
名前 | 役割 |
---|---|
松宮脩平 | 若き刑事。加賀恭一郎の従弟。事件の捜査を担当。 |
汐見行伸 | 被害者の知人。震災で子供を失い、再生を願う父。 |
萌奈 | 行伸の娘。体外受精で生まれた“希望の子”。 |
花塚弥生 | 自由が丘のカフェ店主。殺害される。 |
綿貫哲彦 | 弥生の元夫。事件に関与の疑い。 |
中屋多由子 | 綿貫の事実婚の相手。事件の真犯人。 |
芳原亜矢子 | 金沢の料亭女将。松宮の出生の秘密を知る。 |
芳原真次 | 亜矢子の父。松宮の実父である可能性が浮上。 |
🔍 あらすじと事件の流れ(ネタバレあり)
第1の事件:弥生殺害
- 自由が丘のカフェ店主・花塚弥生が刺殺される。
- 捜査線上に浮かぶのは常連客・汐見行伸。
- 行伸は震災で2人の子供を亡くし、体外受精で生まれた娘・萌奈を溺愛していた。
- 萌奈は「自分は亡くなった兄姉の代わり」と感じて苦しんでいた。
第2の事件:出生の秘密
- 金沢の料亭女将・亜矢子が、父・真次の遺言状から松宮脩平が異母弟であることを知る。
- 松宮は自分の父が死んだと思っていたが、実は真次が父だった可能性が浮上。
- 松宮は亜矢子と会い、複雑な感情を抱える。
真犯人の告白
- 弥生殺害の犯人は、綿貫の事実婚の相手・中屋多由子。
- 綿貫が弥生と再会したことに嫉妬し、衝動的に殺害。
- 多由子は自首し、事件は解決。
🎭 テーマと象徴
「希望の糸」の意味
- 萌奈は、亡き兄姉の“代わり”ではなく、両親の希望として生まれた存在。
- 松宮は、血縁よりも心のつながりを重視するようになる。
- タイトルの「希望の糸」は、見えない絆を象徴している。
家族の再生
- 行伸と萌奈は、すれ違いながらも少しずつ理解を深めていく。
- 松宮は自分の出生の真実を受け入れ、亜矢子との関係を築こうとする。
- 事件を通じて、登場人物たちはそれぞれの「家族のかたち」を見つけていく。
📝 総評
『希望の糸』は、ミステリーの枠を超えて「家族とは何か」「血のつながりと心のつながり」を問いかける感動作です。加賀恭一郎は脇役として登場し、松宮刑事の成長と葛藤が中心に描かれます。事件の真相よりも、人間関係の再構築に重点が置かれた、静かな余韻を残す作品です。