学生街の殺人

『学生街の殺人』(東野圭吾・講談社文庫)は、1987年に刊行された初期の長編ミステリーで、モラトリアム期の若者の心理と連続殺人事件が交錯する作品です。


🧠 あらすじ(ネタバレあり)

舞台は、大学の正門が移設されたことで寂れてしまった旧学生街。主人公の津村光平は、大学卒業後も進路が定まらず、学生街のビリヤード場「青木」でアルバイトをしている。

ある日、同僚の松木元晴が殺害される。彼は「この街が嫌いだ」と意味深な言葉を残していた。さらに、密室状態で第二の殺人が発生し、事件は複雑化していく。

光平は恋人の有村広美やその周囲の人々とともに事件の真相を追うが、やがて彼女自身が重大な秘密を抱えていることが明らかになる。


🧩 主な登場人物と関係性

登場人物役割・特徴
津村光平主人公。機械工学科卒。学生街でアルバイト中。
有村広美光平の恋人。バー「モルグ」の共同経営者。
日野純子「モルグ」のママ。広美の高校時代の友人。
松木元晴第一の被害者。実は偽名で、本名は杉本潤也。
武宮光平の大学時代の友人。
井原良一東和電機の室長。事件の鍵を握る人物。
堀江園長保育園「あじさい」の園長。後に殺害される。
時田本屋の店主。事件に深く関与する。

🔍 事件の構造とトリック

  • 第一の殺人(松木)は、過去の企業不正と関係していた。
  • 第二の殺人(堀江園長)は密室状態で発生し、トリックが仕掛けられている。
  • 井原が犯人と思われるが、実際には日野純子が真犯人で、時田が共犯者。
  • 純子は井原を巧みに操っており、彼の行動の裏には彼女の意図が隠されていた。

🎹 広美の秘密と物語の核心

  • 広美はかつてピアニストを目指していたが、ある事件をきっかけにピアノをやめていた。
  • その過去が事件の真相に密接に関わっており、光平は彼女の過去と向き合うことで成長していく。
  • 科学雑誌に挟まれていた念書が事件の鍵となり、誰がそれを持っていたかが重要な伏線となる。

🎭 テーマと読後感

  • モラトリアムと成長:光平が事件を通じて自分の人生と向き合う姿が描かれる。
  • 人間関係の複雑さ:恋人、友人、職場の人々との関係が事件に影響を与える。
  • 社会的背景:企業不正、保育園の問題など、社会的テーマも含まれる。

本作は、東野圭吾の初期作品らしく本格ミステリーの構造を持ちながらも、主人公の内面描写に重点が置かれています。どんでん返しもありつつ、静かな余韻を残す作品です。