今邑彩『卍の殺人』 のストーリーを、犯人・動機・トリックまで含めた完全ネタバレの詳細解説です。
基本情報
- 著者:今邑彩
- 出版:中公文庫
- 備考:今邑彩のデビュー作で、「館もの」本格ミステリの代表作のひとつ。卍型の館を舞台にした連続殺人。
登場人物(主要)
- 荻原亮子:主人公。恋人と共に館を訪れる若い女性。
- 安東匠:亮子の恋人。館の一族の一員で、家との決別を宣言するために戻ってきた。
- 布施宵子:匠の従姉妹。館に住む女性。匠とは犬猿の仲に見えるが、実は…
- 館の住人たち:二つの家族が「卍型の館」の二つの棟に分かれて暮らしている。頂点には老女が君臨し、複雑な人間関係を形成。
- 植村刑事:事件を担当する刑事。
あらすじ(完全ネタバレ)
序盤
亮子は恋人・匠に誘われ、彼の実家である「卍型の館」を訪れる。館は二つの棟が卍形に組み合わさった異形の建築で、そこに二つの家族が住み、互いに微妙な緊張関係を保っていた。匠は「この家と決別する」と宣言するために戻ってきたが、直後から不可解な事件が起こり始める。
第一の殺人
館の住人の一人が殺される。現場は密室に近い状況で、死体の位置や家具の配置が「卍」を思わせる形になっていた。館の構造が複雑で、誰がどこにいたかが錯綜し、アリバイが成立してしまう。
第二、第三の殺人
続けて別の住人が殺される。いずれも「卍」を象徴するような痕跡が残されており、館の呪いのように語られる。住人たちは互いに疑心暗鬼となり、亮子も巻き込まれていく。
トリック
- 館の構造トリック:卍型の複雑な間取りを利用し、死角や通路を使って短時間で移動し、アリバイを作る。
- アリバイトリック:二人が共犯であることを隠すことで成立する。普通なら「敵対している二人が共犯であるはずがない」と思わせることで、読者も登場人物も騙される。
- 演出:「卍」の形に死体や家具を配置することで、連続殺人に見せかけ、真の動機を覆い隠す。
真相
- 犯人は 安東匠と布施宵子の二人。
- 表向きは犬猿の仲に見せかけていたが、実は恋人同士であり、共犯関係にあった。
- 二人は館の遺産や支配から解放されるために、他の住人を排除しようとした。
- 亮子は「匠の恋人」として利用され、彼の真の関係(宵子との共犯)を隠すためのカモフラージュに過ぎなかった。
結末
- 植村刑事や外部の推理役によって、匠と宵子の共犯関係が暴かれる。
- 匠は亮子を欺いていたことが明らかになり、亮子は深い絶望に突き落とされる。
- 館の「卍」という形は、家族の因縁と人間関係の絡み合いを象徴しており、最終的にその絡み合いが破滅を招いた。
読後のポイント
- 共犯トリック:クリスティ『ナイルに死す』や坂口安吾『不連続殺人事件』と同系統の「敵対しているように見える二人が実は共犯」という古典的プロットを用いている。
- 館ものの魅力:卍型の館という異形の建築が舞台装置として機能し、読者に「館の見取り図」を意識させながら推理させる。
- 心理的インパクト:主人公・亮子が最後に「利用されていた」と知る衝撃が、単なる謎解き以上の余韻を残す。
✅ まとめると、『まんじの殺人』は「卍型の館」という舞台装置と「敵対する二人の共犯」という古典的トリックを組み合わせたデビュー作であり、今邑彩らしい人間心理の暗さと本格ミステリの様式美が融合した作品です。